【完】せんぱい、いただきます。



キーンコーンカーンコーン







5時間目の終わるチャイムの音で我に返る。





目線を上げると彼―加藤君も顔を上げていた。







目が合う。








「もう少し、ノート借りてていい?


まだ、写し終わりそうにないんだ。」





彼は申し訳なさそうに言う。




「私、今日は予定ないから、

もう少し残ってもいいよ。」



「俺、この後バイトなんだ。」



「そうなんだ。ノートはいつでもいいよ。」





私の言葉を聞いて、彼は、

私のバインダーと自分のルーズリーフを

自分のカバンに入れた。




「来週の心理学までには返すから」




彼はそう言って立ち上がる。

私もあわてて自分のリュックを閉め、立ち上がる。




「実紅ちゃんの家、どっち方向?」




「駅の方」




「そうなんだ」




彼は、そういうと裏門の方に歩き出した。





カフェから一番近い出口は裏門で、

駅に近い出口も裏門。





私は彼を並んで歩き出した。





1月の6時過ぎはすでに暗くなっていて

街灯が灯っている。





そして言うまでもないが寒い。






私は彼と他愛ない話をして帰った。



気が付けば家の近くまで彼は送ってくれていた。











先輩の部屋からはたまたま


私たちが歩いているのが見えたらしい。







でも私は気づけなかった。








先輩が見ていたことも。






彼の気持ちも。





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