揺蕩うもの
 ベッドの上でごろりと寝返りをうつと、僕は枕元の時計に目をやった。もう、決して早い時間ではない。それでも、昨日の紗綾樺さんとのジェットコースターのようなデートを終えて、終電がなくなるから仕方なく帰宅したものの、本当は朝まであのままファミレスで語り合いたかったというのが正直な気持ちだった。もちろん、宗嗣さんが許してくれるわけないし、紗綾樺さんだって疲れ切っていただろうから、それは無理だという事も分かっている。それなのに、眠れない夜を過ごし、激しい睡眠不足による怠さをかかえている今も、正直、これから紗綾樺さんを訪ねてデートに誘いたいという欲求は溢れかえっている。しかし、激務の公務員であるはずの自分が二日も続けて仕事を休んだと言ったら、紗綾樺さんに軽蔑、いや宗嗣さんに軽蔑されそうだし、二日も続けてデートに誘ったら、迷惑な男だと紗綾樺さんに思われそうで、寝たいような、起きたいようなで、ごろりごろりと一時間ほど寝返りをうち続けている。
 あー、一緒に写真撮ればよかった。やっぱり、宗嗣さんにお土産の一つも用意するべきだったな。せっかくだから、紗綾樺さんに似合いそうなダッフィーをプレゼントしたり、いっそ、お揃いで何か揃えればよかった。
 そこまで考えてから、唯一のお揃いにできる可能性があったパスケースに手を伸ばした。
 致命的だ。紗綾樺さんには似合いそうな可愛いのを選んだから、自分は無難路線にしてしまったが、開き直ってお揃いにしておけばよかった。
 はぁ・・・・・・。
 これまた、何度目かのため息が口をついて出る。
 連日デートに出かけていると課長に知れれば、反省のない奴と切られて別の課に異動させられるかもしれない。でも、絶対に緊急招集かけられない休みなんて滅多にない。それを考えると、やっぱり紗綾樺さんに会いたい。
 そこまで考えて、僕は今更だがメールを出せばいいんだという事に気が付いた。
 とりあえず、昨日は楽しかったことを伝えて、是非、また遊びに行きましょうという展開にしながら、メールの返事待ってますとサラリと伝えて、返事が来たら、お茶でもいかがでしょうかと誘ってみればいい。
 方針を固めると、紗綾樺さんに負担に思われず、それでも自分の想いが伝わる文を延々かかって何とか書き上げた。送信ボタンを押したら、あとは返事を待つだけだ。そう、待つだけ。もし、紗綾樺さんがメールの読み方を忘れていたら、もしくは、返事の書き方を忘れていたら、当然、宗嗣さんが帰宅するまで放置ってことになるのか? 電話くらいくれないか? いや、メール見てもらえましたかって電話するべきか? いや、自分から電話したら、メール書いた意味ないだろ! それなら最初から電話すればいいんだし・・・・・・。
 僕は独り考え続けた。

☆☆☆

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