溺甘副社長にひとり占めされてます。

首にかけていた右手を下げて、彼の胸元に触れる。手の平を通して、逞しさと温かさが伝わってくる。


「私に、白濱副社長が魔法をかけたんですよ」

「魔法?」

「そうです。もうダメだって思うたび、あなたが私に魔法をかけてくれた。ついさっきだってそう。魔法が解けかけて挫けそうになってた私に魔法をかけてくれた」


一つ呼吸を挟んで、私は笑みを浮かべる。


「ロイヤルムーンホテルの副社長としてのあなたに見合う女性になるにも、白濱和臣さんに見合う女性になるにも、まだまだ努力が必要な私ですけど……あなたのそばにいさせてください」


私の姿だけを宿している、彼の瞳をじっと見つめ返した。


「あなたの隣だけは、誰にも譲りたくないんです」


私の腰に触れていた手が、ゆっくり上昇する。大きな手の平で、私の頬を包み込む。


「俺の魔法は強力だから、ちょっとやそっとじゃ解けないからね?」


私の額に、彼が柔らかく口づけを落とした。


「美麗ちゃんへの思いが動力源だから」


顔を熱くし見つめ合い数秒後、彼が私の身体を両手で持ち上げ、その場でくるりと一回転した。

そして私の両足を絨毯の上におろすと、彼が周りを見回す。

すぐそばで村野さんがにこやかに笑っている。言葉を失っている様子の宍戸さんとその友人が並び立つ姿も近くにある。

みんなが私たちのことを見つめている。


「この場を借りて、もう一度はっきり言わせてください。彼女が僕の婚約者、館下美麗さんです。優しくて頑張り屋さんの、とても素敵な女性です」


彼の口から紡がれる新しい恋の魔法は、甘くて優しくて、永遠の輝きを放っていた。








END


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