あのとき離した手を、また繋いで。



私を怒らせる天才だ、この人。


でも、知ってる。私のことを待ってくれていること。あの日から手を出されていない。キスもハグも。強引になにかされることはない。約束を守ってくれていることがわかる。



「どっちから塗る?」

「桐生くんのほうが明るいから桐生くんから染めよ」



洋服につかないようにカバーをつけて、美容室で自分がやってもらっていたように見よう見まねで桐生くんの髪の毛にブラシとくしが一本になったもので塗りこぼしがないように塗っていく。


ふたりで黒髪にしようと決心したのは夏休み直前に行われた先生との面談が終わったあとだった。
本気でセンター試験を受けるつもりならまずその髪の毛からどうにかしろとふたりそろって同じお叱りをうけたことを知った。


先生曰く私たちは「似た者同士」だそうだ。
まったくもってその意味がわからない。どこがどう似ているのか。


それを水無瀬くんに言うと「あーわかるわ」と笑っていたけれど、心外もいいところ。



「じゃあ流してくるわ」

「うん、行ってらっしゃい」



20分ぐらい置いて、桐生くんはシャワーを浴びに浴室に行った。彼が戻ってきたら今度は私の番。


疲れてしまってソファーに腰こける。そのまま横に倒れたこんでしまった。


しばらく目をつむっていると、シャワーの音が止み、浴室の扉が開くがする。


さっき意地悪されたし、このまま寝たふりして驚かせても面白いかも。なんて考えてそのまま目を閉じていた。



「モナ?寝たのか?」



近づいてくる足音が近くで止まった。ほのかに石鹸のいい匂いがする。
しめしめ、騙されてる。さて、どのタイミングで驚かせてやろうかな。


そうニヤけそうになりながら頃合いを見計らっていると、頭あたりを優しく触られた感覚がした。


たぶんいま私は、頭を撫でられている。そして次の瞬間、短いリップ音がした。頭にキスが落ちてきたのだ。



「わり、許してくれ……」

「…………」

「早く俺のこと好きになれよな……」



< 109 / 123 >

この作品をシェア

pagetop