あのとき離した手を、また繋いで。

心のなかで叫んでいたこと




考えてみれば、夏希と過ごした時間なんてかなり短いものだった。
春と夏と秋はふたりで過ごすことができたけれど、冬にはもう別れを選んでいた。


なのにどうしてこんなにも私の心はいつまでも動くことができないでいるのだろう。


立ち止まったまま、ぐるぐると同じことを繰り返し考えているだけ。


どうしてこうなってしまったのか、ほかに選択肢はなかったのか、とか。いまさら考えたってどうしようもないことばかりに想いを馳せてしまうのだ。


あのときは理由などなんだってよかった。
そうなってしまった現実だけが"確か"で、目の前にある"真実"だった。


原因はなんであれ、恋が終わってしまうことに変わりなくて、避けられない運命だった。


あのとき、私がもうすこしワガママになっていて、離れたくないと、黒木さんじゃなくて私を選んでと素直に言うことができていたら、また違った"いま"にたどり着いていたのかもしれない。


もしものことを考えだしたらキリがない。
だけど後悔の感情ばかりが湧いて出てくる。


だからか楽しかった思い出もあるはずなのに、最近では夏希と出会わなかったほうが良かったのにと、ネガティブになってしまう。


夏希に出会えたからこそ、あのときの私は救われたし、いまの私がいるというのに。


それでも私は夏希への気持ちを手離せないでいるいまが苦しくて、切なくて、やるせないのだ。


こんな風になるなら出会わなければよかった。


本気で忘れたい。なのに忘れられない。


もしも時間が巻き戻るなら、私は、君となんか恋をしたくない。好きになんか、なりたくない。絶対に。


いつしか夏希との恋は完全なる"辛いできごと"として脳内に刻まれていた。


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