あのとき離した手を、また繋いで。


でも約束していて居留守なんてできないし、逃げることなんてできない。


ゆっくりと玄関に向かって歩いた。扉を開けるともうすっかり見慣れた私服姿の桐生くんがいた。


顔をあげることができずにいる。



「モナ?どうした?泣いてるのか?」

「桐生く……っ」

「お袋さんと喧嘩でもしたか?」



声色が優しくて、さらに涙を誘う。
どうして私はこんなにも優しくて頼りになって、いつも、いつだって男らしくリードしてくれる彼を、この世界でいちばんに好きになることができないんだろう。


心が壊れそうなぐらい、あるひとつの想いを叫んでいる。


無視したい。でも、できない。


もうなにが正解なんてわからない。


だけど最初から最後まで、私は彼への想いを消し去ることができずに、抱いたままでいる。


なにもかもがクリアになる。シンプルに、絡まりあった糸はたしかに最初から一本だったかのように。


心のど真ん中にある、たったひとつの真実に身を委ねる。


そうして無意識に握り締めてしまってしわくちゃになった黒木さんからの手紙を無言で桐生くんに差し出した。



「これ……」



桐生くんはなにかを言いかけてやめた。手紙を受け取ると黙って読む。意識が飛びそうなぐらい重い空からの謎の重圧。


息をする1秒1秒が永遠のように長い。



「俺さ、モナ」

「…………」

「ずっとどうやったらお前の心からの笑顔を引き出せるのかなって考えてたんだ」



桐生くんの顔を見た。穏やかに笑っている。



「でもいまようやくわかった。お前を笑顔にできるのは俺じゃないんだって」



いま、なんの話をさせていまっているのか頭でわかっていた。

だけど、やっぱり苦しい。


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