あのとき離した手を、また繋いで。

ひとりぼっちの少女が出会ったのは





「ねぇ、橘モナって知ってる?」

「あの2組の美人でしょ〜?知ってる知ってる」

「エンコーしてるって噂だよ!」

「え、うそ!?ちょー歳上のカレシがいるって噂もあるよね!?」

「おじさんでしょ!?もしかして不倫かな!?」



……出た、まただ。


トイレの個室にて聞こえてきたくだらない噂話。私はそばにいる彼女たちに聞こえないようにそっとため息を吐いた。


彼女たちは今まさに自分たちが噂をしている"橘モナ"が目と鼻の先にいるなんて露ほどにも思っていないのだろう。


それが彼女たちの遠慮のない笑い声や声量で伝わってくる。


このデタラメな噂話、1年生の頃からあるけど一体誰がなんのために流しているのだろうか。


されている私としてはなにひとつ面白くない。迷惑なだけ。
お陰様で高校2年生になっても友だちすらひとりもいないままだ。


ああもう、用も終わったから出たいのに、彼女たちのせいで出られない……。


落胆のため息を深くついて、私は無意味にその場に留まった。
しばらくして彼女たちの気配が遠くに消えたのを確認してから、トイレの個室からようやく出ることができた。


なんで私が気を使わないといけないんだって感じだけど、でも鉢合わせて面倒なことになるのはもっと嫌だ。


手を洗うとき、目の前にある鏡に映る自分を見る。


……見た目が派手だからかな。


自分で言うのもなんだけど、目は大きいし、整った顔をしているのは認める。心の中で謙虚になっても仕方ないし。


食が細いから、身体も細い。母親に似て、肌の色も不健康なほど白い。


胸元まである長い髪の毛はもともと色素が薄く、茶髪にしようと染めたのに、なぜか金髪になってしまったのはつい最近のこと。


これじゃあ噂に拍車をかけるだけだとわかっているのだが、染めたばかりでまたすぐ染めなおすと髪も傷んでしまうので今はそのままにしている。


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