あのとき離した手を、また繋いで。



涙が黒木さんの頬をつたっていた。強く睨みつけられてたじろぐ。


今まで陰口はたくさん叩かれていたけれど、こんなにも面と向かって敵意をむき出しにされたのは初めてで、どうしていいのかわからない。



「めぐる、どうし……っ」



戻ってきた夏希が優しく声をかけようとしたのだが、黒木さんは踵を返してとなりのクラスへ戻って行った。



「なにかあったのか?」

「ううん……わからない……」



そう言うしかなかった。
真実は、夏希のことを傷つける気がした。


黒木さんは夏希のことが好きで、私と夏希の仲を良く思っていないのだなんて、黒木さんのためにも夏希に言ったらダメだ。


頭の中で黒木さんの声が響き続けている。


ーー『ずっとずっと好きだったのに!』


彼女の悲痛な想いが胸にダイレクトに感じられて、私まで胸が苦しくなる。


気持ちが、わかるから。
恋を知らなかったこれまでの私ならきっとわからなかった痛み。


ーー『取らないでよ!』


それでも私が彼女に同情するのは、きっとかなりの侮辱になるから、やめておこう。


痛む胸に顔を伏せて、教室に入った。
黒木さんの泣き顔は切ない余韻を残していた。



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