あのとき離した手を、また繋いで。

君のいない日々




水無瀬くんと清水さんにはたくさん迷惑をかけた。
泣きじゃくって、たくさんたくさん心配をかけた。


眠れない夜はふたりに交互に電話をかけたし、メッセージも、アプリを介して送りまくった。だってふたりがそうしていいって言ってくれたから、遠慮なく。


そしたら次第にふたりから連絡してくれるようになって、私の心は幼児化してしまったかのようにふたりに甘えまくった。


そうしていないと、メンタルがもたなかった。


ふたりはなんの文句を言うことなく、私を過保護に接してくれた。ふたりには本当、感謝しかない。


そして夏希と黒木さんはというと、無事に恋人同士になったのだと風の噂で聞いた。



「…………」



夏希と別れてから2週間。
思い出の砂浜へ、ひとりで来た。


ここは、夏希と初めてキスをした場所。
付き合った日に訪れたあの海だった。


この砂浜にくるのは2回目だ。


夏休みに夏希とここへ行こうと計画を立てていたのだけれど、雨でその計画が流れてからそのままになった約束。
果たされることなく、終わってしまった。


あのときはまだ春だったね。

いまは、寒い冬。君を想った涙が地に落ちた。


君はいま、笑っていますか?


私じゃない女の子のとなりで。



「……っ……」



風は肌を突き刺すほど冷たく痛い。
前回来たときとはまた違った印象のこの場所。


あんなに輝いていた空と海はどことなく暗く、砂浜は乾燥しきっていて、冬の閑散とした空気感がまたさらに寂しさを演出していた。


君のことを想えば、涙なんてかってに出てくる。


学校で夏希と席が離れた。休み時間は水無瀬くんや清水さんとくだらないことを笑って話をしている。


最近じゃその光景を見ていたクラスメイトたちが私のことを親しみやすい人なのだと認識してくれたようで、話しかけてくれるようにもなった。


「橘さんって本当は明るい人なんだね」と、そう言われた。


< 91 / 123 >

この作品をシェア

pagetop