狂愛彼氏


(ま、返ってきたからいいか)


そう結論付けて、電源をいれて、鞄にしまう。


「それじゃあ」


疾風に軽く頭を下げて、さぁ帰ろうとすると、腕を捕まれた。
そのまま歩こうとしていたから、私の体は後ろに引っ張られる。


「?なに?」

「ん……忘れ物?」


他に何か忘れたっけ?と向き直れば、顎を捕まれて顔を上げられる。


薄暗い中で、疾風の表情はぼんやりとしか分からない。


「一体、なに」

「お前、明日からは化粧なんかするなよ」

「勿論、」


化粧なんて嫌いだし、周りからの視線はいやだったし、疾風はなんだが怒っていたしいいことなんて一つもなかった。
もう、本当に必要なとき以外は絶対にするわけないじゃない。


「分かっていればいい」

「ぇ?」


パッと手が離れる、と思えば、唇に柔らかいものが触れた。


熱い、柔らかいもの。


「………じゃあな」


また明日、と疾風は私の頭を一撫ですると、車に乗り込み、帰っていった。


「………え?」


(今、何が起こった?)


私は、口元に手を当てて、暫くその場から動けなかった。


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