その男、カドクラ ケンイチ






ーーーーーー病院


コンコン

「失礼します。」


教頭が入院している部屋にカドクラがやって来た。


「カドクラ先生、すみませんな急に呼び出して。」


「いえ。本当は面会時間内に仕事終わらせて来るつもりだったんで。」




病室の机の上にはなぜかゴロゴロコミックが置いてあった。





「教頭先生マンガ読むんですか?」


「これはエンドー先生がさっき来てくれた時に持ってきてくれたんですよ。

“俺はもう読んだから”って置いていってくれました。」



50歳を過ぎた自分の上司にマンガの月刊誌を差し入れするエンドーのセンスがよく分からないが、カドクラは思わず笑った。






「教頭先生、頭の具合はどうですか?」


「まだ少し痛みますが大丈夫です。」


「頭を殴られた影響で事件前後の記憶がないって聞きました。」


「そのことなんですが・・」





コンコン

「失礼します。」


看護師が入ってきた。



「あの~申し訳ございません。
もう面会時間過ぎてるんですけど~。」



「すみません看護婦さん。
大事な話なのでもう少しいいですか。」




教頭は看護師を退室させ、再びカドクラと二人きりになる。






「確かに頭を強く殴られたせいで、記憶がかなり飛んでいます。

しかし、覚えていることが1つ・・・。」



「なんですか?」




教頭はカドクラの目を見る。



「私は昨日の帰り道、2年6組 タカハシ君を見ました。」





2人の間にしばし、沈黙が流れる。




「そ、それは間違いないんですか?」


カドクラは動揺を隠せない。


「・・・・・間違いありません。
確かにタカハシ君でした。

しかし、記憶が曖昧で彼に襲われたかは覚えてないんです。」



「・・・」




「曖昧なまま私がタカハシ君のことを話せば、警察は彼を疑う。

私の証言ひとつで逮捕、あるいは退学になんか簡単にできる。

だから、私は警察にもアザクラ校長にも、『何も覚えていない』と嘘をつきました。」








教頭はフゥっと息をつく。


「カドクラ先生。あなたには話しておきたかった。」



「・・・」



再び沈黙が流れる。







「教頭先生。」


沈黙を破ったのはカドクラだった。


「・・・ありがとうございます。」




そう言い残し、カドクラは病室を出た。












第21章 完

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