その男、カドクラ ケンイチ







ーーーーーー





業後



カドクラは図書室に向かっていた。



探し人は6組の教室にいなかったが下駄箱の靴はまだあった。



図書室にたどり着くと、本棚の間に探していた人物が立っていた。




「タカハシ。」


カドクラが呼んだ先に立つ2年6組生徒 タカハシ。



タカハシは掴んでいた本を棚に戻す。



「何か用ですか?」


タカハシは愛想のない笑みをうかべる。




カドクラは一歩一歩近づく。



図書室には2人以外、誰もいない。








「単刀直入に聞く。
教頭先生の怪我に、お前は関わってないよな?」


「教頭もあんたもお人好しにもほどがある。」



「なんだと?」


「自販機ぶっ壊しても、窓割っても、ちっとも面白くない。」


「・・・・お前がやったのか?」


「だけど今回はちょっとは楽しめたでしょ?
自分にとって大事な人が傷ついて。」


「・・・・」



カドクラはタカハシの真ん前に立つ。





「教頭先生はお前の事を警察に言わなかった。
最後の最後のところでお前を信じた!」


「だからお人好しにもほどがあるって言ってんだよ。」



「てめぇ!!」





バンッ! バサバサ



カドクラはタカハシの胸ぐらを掴み本棚に押し付ける。


そのはずみで棚から本が何冊か落ちる。









「殴れるもんなら殴ってみろよ…暴力教師。」


タカハシはカドクラを見上げ淡々と喋る。



「何でこんなバカなことを続ける!?」


「気に入らないんだよ。
いきなり来てどんどんみんなに慕われて。」


「俺のことか?」


「全部分かったような口聞きいて、あんたは俺のこと何も見えてないな。」



胸ぐらを掴んだカドクラの手にさらに力が入る。




「俺が気に入らないんなら俺に言えよ!
自販機も、窓ガラスも、そして教頭先生も関係ないだろ!!」



「…殴るんなら早く殴れよ…」




タカハシは一切ひるまない。



カドクラは拳を握ったまま震える。


ーーーー


「休み明けからいよいよ2ー6の担任をお任せするわけだけど、大丈夫ですね。」


「はい。これから生徒達と一緒に勉強していこうと思います。」


「アザクラ校長も期待していますのでよろしくお願いします。」


「分かりました。」


「何か悩みができたら私でも他の先生方にでもすぐ相談してください。」


「ありがとうございます。頑張ります。」


「1つだけ私と約束してください。」


「何でしょうか?」


「今の時勢、体罰の問題がかなり厳しくなってきています。

前の学校では通用しても、うちでは大問題になりますのでそこだけは肝に銘じてください。」





ーーーーーーーー




ナガノに代わって2ー6の担任になる時、教頭と交わした誓いがカドクラの頭の中を巡る。






「・・・・・・・」




フワッ


カドクラはタカハシから手を離す。




「黒酢の不良は殴れても俺は殴れないのか?
…笑わせんなよ。」



タカハシは図書室を出ようと歩き始める。



「・・・タカハシ。」



カドクラが呼び止める。



「俺は教頭先生の意思を継ぐ。
お前を必ず救ってやる。」



「…………」



タカハシは図書室を出た。







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