その男、カドクラ ケンイチ










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放課後の校舎は吹奏楽部の音楽が響く。

グラウンドは運動部の活気で溢れる。


カドクラは宣言通り図書室へ向かった。








「あんたもしつこいな。」



図書室ではタカハシが待ち構えていた。


夕方の図書室は、今日も2人以外誰もいない。



「タカハシ、犯した過ちを全て正直に言うんだ。」


「あんたが俺をしょっぴけばいいだろ。」


「誠意を持って償えば、きっとまたやり直せる。」


「どいつもこいつも、口先だけの偽善者だな。」



「昨日言われたよな、俺にはタカハシの事が見えてないって。

確かに俺は何も知らなかった。
お前が過去に受けた心の傷・・」


カドクラが言いかけた時、タカハシの表情が変化する。



「あんたに何が分かる?
5月に面談した時、あんた言ったよな?
『いじめられたことがない』って。」


「確かに俺にはそういう経験がない。
だからって・・」


「信じていた先生に裏切られ、誰も味方してくれない、見て見ぬふり、一緒になって攻撃してくる、

あんたに俺の何が分かる!?」




タカハシの声が大きくなる。




「お前に傷を負わせた奴と同じ立場に立つ俺は、簡単に言葉を掛けてはいけない。

だけどなタカハシ。

だからってガラスを割ったり教頭先生を傷つける理由にはならない。」


「じゃあ早く煮るなり焼くなり好きにしろよ。
もう俺には誰も味方がいない。」



「自分が孤独だと思ってるのか?

オオシマもダテもアカイもノノムラも、みんなお前の事を心配して気にかけている。

お前の事を友達と思ってるからだろ!?」



今度はカドクラの声が大きくなる。





「あんな奴ら…友達でも何でもねぇよ…」


「・・・」


「…」


「・・・・・本気で言ってるのか?」


「…俺は…誰も信じない…」





お互いの口が止まる。



吹奏楽部の音楽だけが聞こえる。













「タカハシ・・・」



先に口を開いたカドクラ。


「信じる心がない今のお前に・・生きる資格はない。」


「…」


「・・だけど、何度だって人生はやり直せる。
俺は喜んで手伝う。」


「…」


「お前がその気持ちを見せるまで、ガラスの事も教頭先生の事も俺は黙っておく。」



カドクラは図書室を出た。






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