その男、カドクラ ケンイチ


(やっぱりいない。)



今日は金曜日ということもあってか、
生徒は一人残らず帰宅
あるいは部活に行っている様子だった。



(一応2年生の教室全部回ってみようか…)



6組に貼ってある掲示物を眺めながらそんなことを考えていた。









「先生。」


呼ばれたほうを見ると6組の生徒 オオシマがいた。




「ああ、どうも」


前の学校に女子はいなかったので、
カドクラは女子生徒に慣れていない。



「帰ってなかったんだね。」


「まだ時間あるから。」


「オオシマさんは部活とかやってないの?」


「1年生の時に顧問がウザいから辞めた。」


「そうなんだ。」



生徒と授業以外で話すのはこの学校に来てから初めてだった。





「ねぇ先生、前は黒酢高校にいたんですよね?」


「まぁはい。」


「先生も暴力とかふるってたんですか?」


「いやいやいやしてません。」



本当は番長をタイマンでぶちのめした過去など
ちょこちょこあるのだが、
教師として問題なので知っている人は少ない。



(黒酢のイメージで
生徒に恐がられてはまずい。)



カドクラはそう感じた。




「別に普通に過ごしてたよ。」


「ふーん。ひょっとしてパシりとか?」


「そんな感じかな。」


「ちょっと期待外れだなぁ。」




オオシマは携帯を取り出した。


「あ、来た。じゃあ先生さようなら。」



「さようなら。」




オオシマが去った後、
6組は再び静寂に包まれた。





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