その男、カドクラ ケンイチ




コンコン



2人が話す病室に堂々秀高校第85代校長 アザクラが入ってきた。



「アザクラ校長。」


「タカハシ君が助かりまずはひと安心ですな。」


「校長先生には感謝しきれません。
ありがとうございます。」



アザクラはタカハシに付きっきりで両親のサポート、情報があれば学校に連絡していた。



「私にはそれぐらいのことしかできないので。」



アザクラは一つ咳払いをする。



「タカハシ君、君は・・」




アザクラが尋ねかけたその言葉を遮り、タカハシが声を発した。


「校長先生。自殺なんかじゃありません。あれは事故でした。」


「!」




カドクラが驚いた表情でタカハシを見る。


「月が綺麗だったので、屋上に出て月を見てました。

その時に立ちくらみがして…
だから全て自業自得で学校とは何の関係もありません。」



思わぬ告白にカドクラはもちろん、アザクラも少し驚いた表情を浮かべた。



「そうですか・・。」






タカハシはそのまま話を続ける。


「あと…今までずっと黙ってましたが、学校の自販機を壊したのは僕です。
それに…保健室の窓も…僕が割りました。」




「…」


タカハシはカドクラを見る。



カドクラは『うん』と頷く。



「そして…………教頭…」









コンコン



タカハシが最大の罪を告白しようとした時、病室にノックの音がこだました。




ガチャリ …



入ってきた人物に3人は驚く。



「き、教頭先生!」


カドクラが思わず声を上げる。





現れたのはタカハシに襲われ、入院していた教頭だった。



「さきほど退院してきました。
校長、カドクラ先生、ご心配おかけしました。」


「さっそく来て頂いたということは、もう心配無用ですな。」


アザクラはホッとした表情を浮かべる。




「教頭先生…」



タカハシはベッドの上から教頭を見つめる。



しばらくタカハシの目を見た教頭は、優しく微笑んだ。



「校長。」


「何でしょうか?」


「思い出しました。
あの夜、私を襲ったのは30代ぐらいの少し大柄の男です。」


「え…」

「・・・」


カドクラとタカハシは戸惑う。



「ではタカハシ君には、

『自販機を壊した事』
『窓ガラスを割った事』

に関してだけけじめをつけてもらえばいいですね?」



「はい。」





教頭はベッドに近づきタカハシの肩に手を乗せる。



「タカハシ君、いいですね。私を襲ったのは30代ぐらいの大柄の男です。

私が言うのだから間違いない。
警察にもそう証言します。」




「…教頭先生……ごめんなさい…本当にごめんなさい……」



タカハシの涙腺がまた緩む。


「君はまだ若い。
君の生きる道を堂々秀高校で見つけなさい。」


「……はい…」






「では、タカハシ君。」


アザクラが再びタカハシを見る。



「君が退院できる頃には、学校は夏休みに入っているでしょう。

退院したら、毎日学校に来てください。

欠席した分、追いつく為に毎日補習を受けて下さい。
それが今回のペナルティです。」


「…分かりました。」







「カドクラ先生。」


アザクラは次にカドクラを見る。



「各教科の先生に補習のお願いをし、段取りを組んで下さい。

それが担任として、今回の君へのペナルティにします。」


「分かりました!」



カドクラは力強く頷く。



「私も毎日付き合います。
それが学校長としての責任です。」




想いと想い。思惑と思惑。
様々な感情が交錯した病室。


堂々秀高校第85代校長 アザクラ


今、勇気ある処置を決断した。







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