私の上司はご近所さん
Story・8

イベント当日


残業して部長と一緒に帰る。そんな一週間があっという間に過ぎて迎えたイベント当日の朝。家を出ると、矢野ベーカリーの前を掃除している翔ちゃんと出くわした。

「翔ちゃん。おはよう」

「はよ。今日は土曜日なのに仕事か?」

スーツ姿の私に気づいた翔ちゃんに尋ねられる。

「うん。今日は新商品のイベントなんだ」

「ふーん、そうか。あ、そうだ。ちょっと待ってろ」

翔ちゃんは手にしていた箒(ほうき)を私に突きつけると、矢野ベーカリーの店舗の中に入って行った。

「ほら、百花の好きなメロンパン。焼き立てだぞ」

ほどなくして店から出て来た翔ちゃんが、今度は白い袋を押しつけてくる。翔ちゃんに箒を返すと、受け取った袋の中身を見た。

袋の中にはほんのりと焼き色がついたメロンパンとチーズロールパンが入っている。まだ温かくてふんわりと柔らかそうなメロンパンを見たら、朝食を取ってきたにもかかわらず、今すぐかぶりつきたい衝動に駆られた。でも、今は我慢、我慢。

「翔ちゃん、ありがとう! お昼に食べるね」

「ああ」

一応、お昼休憩の時間を設けてはいるものの、タイムスケジュール通りにイベントが進行するとは限らない。時間をかけずに気軽にサクッと食べられるパンがあれば心強い。

袋の中のパンを見てホクホクしていると、翔ちゃんの手が頭の上にのった。

< 104 / 200 >

この作品をシェア

pagetop