私の上司はご近所さん

紺色のスーツに白いワイシャツとストライプのネクタイ。オーソドックスなスーツ姿の部長に見惚れてしまったのは、間近で見た彼の笑顔が素敵だったから。しかし翔ちゃんの荒々しい言葉で、我に返る。

「おいしそうじゃなくて、マジでうまいんです!」

温和な性格とはいえないものの、客商売をしている翔ちゃんは他人に対してそれなりに愛想がいい。けれど部長にだけはムキになって大きな声をあげる。

「ちょっと、翔ちゃん、どうしたの?」

翔ちゃんを落ち着かせるために、彼の腕に手をあてて声をかけた。しかし、その手を思い切り振り払われてしまう。

「……なんでもねえよ」

「あっ!」

翔ちゃんの腕が私の手にあたり、その衝撃で握っていた袋が指先から滑り落ちた。

----パサリ。

音を立てて落ちた袋から出てしまったメロンパンが、地面の上に転がる。もう食べられないメロンパンの無残な姿が悲しかった。

「翔ちゃんのバカッ!」

一瞬のうちに頭に血がのぼった私は翔ちゃんに暴言を吐くと、その場から駆け出した。

「百花っ!」

背後から私を呼び止める翔ちゃんの声を聞いても、足は止めなかった。

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