私の上司はご近所さん

ああ、ビックリした。仕事中にデートに誘われるなんて人生初めて……。

受話器を戻しながら気持ちを落ち着かせるために大きく深呼吸していると「園田さん」と部長に名前を呼ばれる。

「は、はい」

まだドキドキと音を立てる鼓動を誤魔化すように平静を装うと席を立ち、部長のデスクに向かった。

「星出版さんの取材だが、俺も同行するから」

「えっ?」

もう私は新人ではない。取材対応はひとりでできるし、製造過程の説明は工場長がしてくれる。

自分が一人前として見られていないような気がして、なんとなくおもしろくない。

「工場長に挨拶したいんだ」

部長は入社してからずっと札幌支社勤務だった。だから工場には一度も行ったことがないのだろう。

急な申し出に一瞬戸惑ったものの、部長が工場に同行すると言い出した理由に納得した。

「わかりました。都合が悪い日はありますか?」

「来週の金曜日は会議が入っているからそれ以外の日で頼む」

「はい。調節してみます」

「ああ、よろしく」

部長に軽く頭を下げると自分のデスクに戻る。そして受話器を取ると日程の確認をするため、工場に電話をかけた。

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