私の上司はご近所さん

あと二週間もすれば夏季休暇に入る。しかし残念ながらゴールデンウイークと同様、どこにも出かける予定はない。

「私は彼氏とハワイに行くんです」

「えっ、そ、そうなんだ」

「はい」

私の記憶では、四月の歓送迎会で部長に彼女がいることを知って悲しんでいたはず。それなのに、すでに彼氏がいると言う佐藤さんに驚いてしまった。

でも私は佐藤さんよりひとつ年上。佐藤さんの充実したプライベート話を聞いて動揺したらカッコ悪い。

「楽しんで来てね」

平静を装いつつ余裕の言葉を口にすれば、佐藤さんが笑みを浮かべる。

「ありがとうございます。それじゃあ私、バスに乗るのでここで。お疲れさまです」

「お疲れさま」

交差点を渡り、バス乗り場へ向かう佐藤さんの後ろ姿を見つめながら思う。

ただでさえ東京の夏は暑いというのに、さらに暑そうなハワイに行くなんて、ちっともうらやましくない。うらやましく……ないんだから、と……。

呪文のように何度も自分にそう言い聞かせると、駅に向かった。

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