PMに恋したら
愛を誓うお巡りさん
◇◇◇◇◇



丹羽さんがつわりによる体調不良で欠勤した。いつも丹羽さんの旦那さんに駅まで送ってもらっていたから、奥様が休みなのに旦那さんに乗せてもらうことは躊躇われた。
旦那さんは社内の花形部署である営業推進部に所属している。わざわざ内線をくれて乗せるよと言ってくれたけれど丁寧にお断りした。丹羽さんがいるときならまだいいのだけれど、忙しい営業推進部の仕事があるのに申し訳ない。
幸い定時で上がれるのだから人通りの多い時間に帰れる。

会社から出て少し歩くと前から歩いてくる人物に息を呑んだ。

「実弥さん、こんばんは」

「…………」

坂崎さんが目の前に立って言葉を失った。

「定時で終わると聞いていたのでお迎えに来ました」

まさか本当に来るとは思わなかった。一人で会社を出たことが悔やまれる。

「連絡先を交換してください。今はタイミングよく会えましたが行違うこともあるかもしれませんし」

「け、結構です……坂崎さんに連絡することはないので……」

私の言葉に坂崎さんは微笑む。その顔は決して優しいとは言えない、何かを企むような笑顔だ。

「僕は実弥さんのことをもっと知っていきたいので。いつでも連絡を取りたいのです」

笑顔と反対に私の顔は引きつる。
どうやって坂崎さんから逃げよう。パンプスで走ってもすぐに追いつかれるだろう。ここで大声を上げるのもかなり勇気が要る。

すぐ横の道路の反対側をパトカーが走り抜けて行った。あのパトカーに助けてもらいたかった。傍から見れば私と坂崎さんの様子には何も違和感がない。そんな便利屋みたいなことを頼むなんて無理だし、もう遠くに行ってしまった。

私は変わるって決めたのだ。シバケンに頼ってばかりでは何も変わらない。

「もう坂崎さんとは会いません。父には私から言います。だからこれを最後にもう会いに来ないでください」

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