棘を包む優しい君に
「かえるの王様って童話を知ってるか?」

 抱きついていた朱莉を隣の椅子に戻して話し始めた。
 長い脚を窮屈そうに組んで、朱莉に話すというよりもぼんやり、おとぎばなしを話すように話し始めた。

「醜いかえるの姿に変わった王様。
 哀れな王様の恐ろしい呪いを解くのは、真実の愛のくちづけ。」

 真実の愛なんてクソ喰らえだった。
 まさかこんな形で………。

「私のキスで健吾さんは人間の姿に?」

「そうなるな。
 悪い。俺も信じられないんだ。」

「じゃ……もう一度……キスを………。」

 今の説明で信用したのだろうか。
 隣の椅子で目を閉じる朱莉に無駄に鼓動が速くなる。

 後頭部に手をやって自分の方へ引き寄せた。
 朱莉のおでこが健吾の胸に当たる。

「馬鹿。やめとけ。」

 朱莉は震えていた。

 狐の話から、もしかしたら食われると思ったのかもしれない。
 ……その説明はできれば今したくなかった。

「でも……健吾さんが人でいられるのなら…。
 あ、いえ。
 ハリーくんも可愛かったんですけど。」

「分かったからもう喋るな。
 もう少しだけこのままでいさせてくれ。」

 腕の中の柔らかさを確かめるように腕に力を込める。
 もう少しだけ……この幸せな時間を……。






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