芸人
もう言われなくても、わかっていた。
金や名誉で甘んじて、自分が崩れていく姿を知っていた。
売れてなかった俺が、ここまで来たのは、デンさんのおかげだ。
でも、この8年間、酒や女などに、逃げないと精神的に持たなかった。
たかが15分が精神的に、何十時間のプレシャーがかかってくる。
でも、一番は、順子の呪縛から逃げていた。
デンさんの前では、何も言えなかった。

「最後や、飲む、打つ、買うは、個人の事やからええけど、仕事は、
しっかりせい、これが最後や!舞台は、戦場やで、気を抜いたら死ぬぞ」

デンさんはこれだけ言って、喫茶店から出て行った。
デンさんからは、8年間いろいろ学んだ。
この世界のいい部分、悪い部分を・・・・・・。
実は・・・・・デンさんは、肝臓がんの末期だった。
人は、亡くなってから、言われた重みを知る。
後から聞いたのだが、あれから飲みに出て、倒れたそうだ。
ずっと酒を辞めなかった。
デンさんもプレッシャーを抱えていたけど舞台には、命をかけていた。
絶対に手抜きしない。それが、デンさんだった。
芸を大切にして、家族より舞台が、好きだった。


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