【完】Kiss me 社長の秘密と彼女のキス
(確かに自分の中では何も消化できていないし、冷静にお礼も伝えていないけど……でもきっぱり言われたし……)

麻耶は複雑な思いだったが、きちんと拒絶の言葉を聞きたい。そう決心をすると、芳也にメッセージを送った。

【鍵を返したいので、仕事が終わったらS公園まで来てください】

それだけメッセージを送ると、友梨佳に送り出されて公園へと向かった。
麻耶はぼんやりとベンチに座って、今までの事を思い出していた。

時間は20時30分。


何時間も待つ覚悟をしたが、思いのほかそんなに待つことなく芳也が現れた。
距離を取って麻耶を見る芳也の瞳には、何も映ってないようで、真っ黒の瞳が麻耶を見ていた。

「ごめんなさい。急に」
そう言って、麻耶はベンチから立ち上がると芳也の前に一歩一歩近づいた。
そして鍵をゆっくりと芳也の前に出すと、芳也は手のひらを出した。
そこに乗せろという事だと理解して、麻耶はその手に触れることなく鍵を置いた。

(やっぱり引き留めてはくれないよね……)

鍵をすぐに握ると、芳也は踵を返して言葉なく麻耶の元から去ろうとした。

「待って」

ずきずきと痛む胸のまま、麻耶は無意識に芳也を呼んでいた。
麻耶自身どんな顔をしているのかもわからず、自分では最後ぐらい笑え。そう心に何度も言い聞かせていた。

「なに……?」
ゆっくりと振り返り表情を変えない芳也から、その気持ちはまったくわからなかったが、芳也の瞳に麻耶の顔が映った。

< 169 / 280 >

この作品をシェア

pagetop