主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
明かりのない暗闇の中、息吹はなんとか手探りで前に進みながらも全く恐怖を感じていなかった。

正面から伝わる優しい波動というか雰囲気がそうさせていたのだが、ここに来るのは必然だと信じていた。


「あの…誰か居ますよね…?」


『私が…呼んだ…の…』


女――というか、高い少女の声だ。

妖ではなく人である息吹は暗闇の中、相手を見ることができずに戸惑っていると、ふわりと光を発する球体が浮遊して辺りを照らした。


――そして、見た。

檻の中、静かに座している金髪碧眼の少女の姿を。


「わあ…可愛い…」


『待って…いたのよ…』


誰を待っていたのか?

息吹がきょとんとすると、少女は目を上げて雪男よりも明るい青の目でじっと息吹を見据えた。


『あなたが…居たから……近い…』


「何が近いの…?どうしてここに居るの…?」


『………あの方が…書いた書物を…』


途切れ途切れにしか話さない少女が声を発しているわけではなく直接頭の中に話しかけていることに気付いてはいたものの、様々な妖を見てきたが、こんな金髪碧眼の妖を見たことのない息吹は、意を決して牢の中に入ると、少女の前に正座した。


「書物?」


『……見て…』


「見てって言っても…どこにあるの…?」


『あなたになら…分かる…わ…』


またすう、と目を閉じた少女はそれっきり話しかけても何も答えず、糸口を掴んだ息吹が仕方なく腰を上げてそこから出ようとした時――


『……私たちの…ことを…知って…』


「え…?」


答える間もなく明かりが消えると、それ以上話すことはないと言われているようで、後ろ髪引かれる思いで地下三階を後にした。

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