主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
屋敷を出ていつもと同じく雪男の袖を握って通りを歩いていると――輝夜が急に立ち止まった。

その目は何かを見ているようで何も見えていないような…虚ろな目になり、そういう時は決まって何かが起こると決まっていた。


「輝夜。輝夜、どうした?」


「…兄さん……そこに…居る…」


突然ぱっと手を離した輝夜が駆け出した。

この幽玄町で彼らに悪事を働く者は居ないが、主さまからふたりを預かった身の雪男は慌てて後を追い、その手を掴む。


「輝夜!急に居なくなるな!兄ちゃんが心配するだろ!」


この言葉が、必殺技。

朔のことが大好きな輝夜はその言葉に足を止めて雪男を見上げた。


「兄さん…」


「お前がそうやって居なくなる度に兄ちゃんが心配するんだぞ。お前はそれをそろそろ知るべきだ。よく考えろ」


雪男の真っ青な目が少し尖り、本気で怒られたのだと分かった輝夜はしゅんとなって俯いた。


「ごめんなさい…」


「よし、分かればいい。坊、お前もちょっと叱りなさい」


朔が無言でいると、輝夜は朔に駆け寄って自らその手を握り、頭を下げた。


「兄さん、ごめんなさい」


「うん…輝夜、俺と居る時は手を離すな」


「はい、気を付けます」


「お前なんで急に駆け出したんだよ」


――輝夜の目はまっすぐ幽玄橋の方に向いていた。


「今居るんです。橋の袂に」


「じゃあ行こう。輝夜」


朔が手を伸ばす。

そしてもう片方の手で雪男の袖を握る。


「おい、行くぞ」


「そりゃ俺の台詞だっての」


小走りに幽玄橋に向かう。

息吹の母――


今更捨てた娘に会いに来るなど何があったのだろうか?

きつく問い質したくなる気持ちを抑えるため、何度も深呼吸をした。
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