主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-③ 
早めの風呂に入って身支度を整えてから朔たちの前にようやく現れた息吹は、待ち構えて目を輝かせているふたりの前に座ってそれぞれの手を握った。


「朔ちゃんと輝ちゃんはお兄ちゃんだからふたりに先に言っておくね」


「え…な、なんですか?」


何か異変を感じ取った朔と輝夜が顔を見合わせる。

息吹はひとつ息をついてふたりの顔を交互に見ながら話し始めた。


「母様ね、しばらく平安町のお祖父様のお屋敷に住むことになったの。お祖母様がいらっしゃってるでしょ?身の回りのお世話をしたりお話をしたり…だから…」


「母様…どの位居なくなるんですか…?」


「そうだね…お祖母様が……」


身罷るまで。

心の中で呟いた言葉が輝夜の心に流れ込み、胸を押さえた輝夜は隣に居た雪男の袖をぎゅっと握って俯いた。


「私たちも一緒に…」


「輝ちゃんたちも一緒に来ちゃうと父様が寂しがるでしょ?それに…」


――朔と輝夜は次代の当主候補だ。

いつどこで狙われるかもわからないし、幽玄町の屋敷に居れば強力な結界が貼られているため安全なのだ。

何せ主さまも居るし、一騎当千どころではない雪男や銀も居る。


「寂しいです…」


「行きっぱなしじゃないよ、こっちには時々戻って来るし、朔ちゃんたちも来ていいんだよ。お祖母様も孫の顔が見たいだろうし、沢山遊びにおいで」


その言葉にふたりがぱあっと顔を輝かせると、雪男がにっこり。


「俺もいいよな?」


「うん、朔ちゃんたちが遊びに来る時は絶対一緒に来てね。ふたりを守ってあげて」


肩の荷が下りた。

ふたりが完全に納得したわけではなかったが、家族の同意を得ることができた息吹は、周囲から見ると別居に見えるこの行動を説明するため、銀や山姫たちの元にも行かなければならず、立ち上がる。


「如ちゃんたちのことをよろしくね。私からもちゃんと後でお話しておくから」


これから忙しくなる。

息吹はまずちゃんと山姫と話をしなければならず、その場を足早に離れた。
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