夢うつつ

 別に買ってきたポーチを菜月に渡すと不思議そうな顔をしていた。
「俺の血で汚れたみたいだった。だから……」
「気にしなくても、別に……」
 落ち込んでいる。
「何か、あったか?」
「何でもないです。そっちのポーチ、返してもらっていいですか?」
「は?」
「血は洗えば取れますから」
「いい。俺が落とす」
「え?」
「一応、一人暮らしは長いから、洗濯のやり方くらい分かってる。お前、血が駄目なんだろ?」
「でも」
「洗い終わるまで、そっち使っててくれ」
 無理矢理でも渡したかった。

 進まない話、笑う少女。
 気がつけば少女と話している方がずっと楽しくなっていた。
「え?」
「婚約の話、水に流す。いい加減話が進まない」
 夏休みに入り、一日菜月がいるようになっていた。
「話が進まない?」
「あぁ。相手が覚えていて、なおかつ承諾した場合に限るって向こうには言われてる。だけど、一向に会えない」
「そんな……」
 表情が揺らめいていた。
「お前が気にする事じゃないんだ。ずっと想っていても相手から返事がない」
 そっちがかたついたら、付き合って欲しいという言葉は飲み込んだ。
「人生、色々ある。だから諦める」
「結構、話し聞いてるの楽しかったんですけどね」
 切なそうな顔で菜月が言う。
「お前は優しいんだな」
「え?」
「そんな顔、するな」
 頭に手を載せたが浮かない顔だった。
「おや、菜月大丈夫かな?」
「え?」
「ここから今日は索敵と支援してくれ。緋炎は陽光と一緒に」
「分かった」
 その言葉を受け、久し振りに陽光と駆逐に行く。
「何でだと思う?」
「知るか。おそらく俺と菜月が近づきすぎたからだろ」
 だから引き離したい。それだけだろう。
「何隠してるか分かんない子だからなぁ。思い切って自分で揺さぶりかけるつもりなのか?」
 その可能性もある。
「そういやさ、面白い話。あの子帰国子女か、国外にいい伝手ある」
「は?」
 駆逐しながら話していく。
「好も美恵ちゃんも驚いていた。あのポーチ、日本じゃ絶対置いてないやつなんだと」
 緋炎が血で汚してしまったポーチだ。確かに、同じものは見つけられなかった。
「しかもネットオークションで購入しようとすると、元値の百倍くらいするらしい」
「はぁ?」
 百倍という金額に驚く。
「だからレプリカや詐欺もあるらしいんだが、好は実際見ただろ?美恵ちゃんと二人で大盛り上がり。本物触ったって」
「魔術習っているせいか?」
「だと思うが、覚えきってない弟子に師匠は太っ腹じゃね?」
 大まかな場所は陽光がここで言っていく。そしてそこから詳しい場所が電話越しで入る。何とも奇妙だ。
「まぁ、国外でもなかなか手に入らない限定のものだ。だからこそ洗ってでも使おうと思った」
「そんな大事なもの、汚したのか」
 最初汚れていなかったが、血のついた手で触ってしまったがために汚れたのだ。
「お前ってホント、気がきかない。何で血のついた手で触るんだよ」
「悪かったな」
 口も動くが、身体も動く。このノリは楽しい。
「う~ん。こりゃ楽だね。支援メインでいいってのは」
「合わせないでやってるからな。お前は防御しないぞ」
「お前はって事は菜月ちゃんは守りながらやってたわけか」
「やっかましいわ!さっさと終わすぞ」
 ばつが悪くなり思わず怒鳴る。図星を指したと楽しそうに笑いながら言ってきた。
「ほいな」
 呪を唱え、互いに合わせもせずに倒していく。
「ホント、ここんとこ妖魔が多すぎだな」
 唐突に携帯が切れた。
「ちょっと……へ!?」
「どうした?」
「菜月ちゃん、帰っちゃったって」
「は?」
 思わず呪を練るのを忘れた。
「思いっきり聖さんが揺さぶりかけたんだろうなぁ……おそらく核心突いたとか?」
 襲ってくる妖魔をひらりとかわし陽光が言う。
「こういうことをやってる時にやりすぎだろ」
「だよなぁ……。だから俺が敵索とか?」
 作戦済みですか。嫌になってくる。
「さっさと終わすに限るな、こりゃ」
 陽光がのんびりと言う。
 チカラ任せ、それしかできない。それでもいいと思える。
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