政略結婚はせつない恋の予感⁉︎

気が重いながらも、わたしは秘書室のドアを開けた。

「遅いじゃない。どこ行ってたのよ?」

大橋さんがいきなり不平を言った。

「大橋さん、昨日は……」

わたしはもごもごと言った。
だって「副社長とのディープキスを見せてしまってすみません」なんて、水野さんの前では言えやしない。

「いいのよ。副社長とのことは吹っ切れたから」

わたしも水野さんも、目を丸くする。

「実は、昨日あのことがあって帰ってから、うちのパパに『会社を辞めたい』って言ったのよ」

「ええぇっ!? 昨日、なにがあったんですかっ!?」

水野さんがムンクのように叫ぶ。

……大橋さん、言わないでよっ!

「そしたら、パパが『せっかくコネで入れてやったのに、辞めるとはっ!』って怒ったの」

ウワサでは大橋コーポレーションの社長は、娘を溺愛してるって聞いたけど?

「それで、あのことを話したら、さらに激怒りしたの」

「『あのこと』ってなんですかっ!?」

水野さんはなおも訊く。

……大橋さん、言わないでよっ!
でも、お父さんには言っちゃったのっ!?

「副社長の婚約者が、朝比奈さんだと知ってたのよ。『そんな縁談を壊そうとするなんて、うちのグループの社員と家族を路頭に迷わせる気かっ!?』って、生まれて初めて本気で怒られたわ」

どうやら、大橋コーポレーションのメインバンクがあさひJPN銀行らしい。

「おまけに、『今までワガママに育てすぎた。これからは、おまえの給料で小遣いを賄え』って言われちゃったの」

そして、大橋さんはしれっと言った。

「だから、会社からクビにされないように、これからは真面目に仕事をしよう、って」

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