政略結婚はせつない恋の予感⁉︎

隅々まで掃き清められた玄関に入り、靴を脱ぐ。
彼のぴかぴかに光った飴色の革靴は、この国では「靴の神様」がつくったと(うた)われるギルド・オブ・クラフツのものだ。

「……おい、彩乃。まさか、畳の間で正座すんじゃねえだろうな?」

将吾さんが柄にもなくビビった顔をしている。

「大丈夫よ。掘り炬燵(ゴタツ)だから、足伸ばせるよ。足腰が弱ってきたおじいさまとおばあさまのために、リフォームしたから」

なんだかそんな顔を見るのがおかしくて、ふふっと笑ってしまった。

「わたしだって、正座は苦手よ。お見合いのとき、テーブル席でホッとしたもん。着物だったし」

まさか、あの日で二度と会うことがないと思った人と、生涯をともにする儀式を執り行う羽目になるとは……

「あの着物、おまえになかなか似合ってたぞ。
今日はなんで着てないんだ?」

……どの口が言うっ!?

今日はおじいさまとおばあさまも同席されるので、「清楚」にミス・アシダのアイボリーのカシュクールワンピにした。

「将吾さん、『キャバ嬢の初詣』って言ったじゃないっ!」

思わず叫ぶと、廊下の向こうまで声が飛んでいった。

「ばっ、バカかっ、おまえはっ。声がでかいんだよっ」

将吾さんが声を殺して、息だけで怒鳴る。

「おまえ、クリスマスのときにおれのおふくろにも言っただろ。あとで、すんげぇ搾られたんだぜ」

グッジョブ、お義母(かあ)さま。


……あ、裕太もいたんだった。

そう思って振り向くと、わが弟はなにやら腑に落ちないとでもいうような、珍妙な顔をしていた。

「……確か、クリスマスは忙しくて会えないって言ってたよな?」

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