政略結婚はせつない恋の予感⁉︎

「彩乃さま、生ビールでいいですか?」

確かにこういう店でノンアルコールなのは、と思ったので、はい、と肯いた。
島村さんが(ナマ)中を頼むと、若い子がジョッキを二つ持ってきてくれた。

「将吾さんがまだお仕事なのに、なんだか悪いですね」

そう言いながらも、くーっと呑む。
やっぱ冬でも生ビールは美味(おい)しいな。

料理はおまかせで頼んだが、どれも美味しい。
さすがはミシュラン星がキラキラ輝くお店で修行しただけある 。

「……ほんとは今日、将吾さんに付いてWeb会議に出ていた方がよかったんじゃないんですか?
ブシュロンにいたとき、ひっきりなしに将吾さんから問い合わせが届いてたんじゃありません?」

わたしは聖護院かぶらを京風に煮て柚子味噌で(あん)かけ風にしたものを、お箸で半分に割りながら尋ねた。そのままの京風味もあっさりしてていいが、柚子味噌と一緒に食べると田楽風に楽しめる。しかも、柚子が香ってくどくない。

「まさか、私があのとき、会社の仕事をしてたなんて思ってるんじゃないでしょうね?」

真鱈(まだら)の白子を湯葉で包み揚げにしたものをつまんでいた、島村さんの眉根が寄る。
わたしも先刻(さっき)食べたが、湯葉をさくっと噛むと中から白子がとろーっと出てくるのだ。

「違うんですか?」

わたしが犬のような目で言うと、島村さんは明らかにギョッとした顔になった。

「島村さん?」

彼がこんなに感情を表情に乗せるなんて。
酔ったのだろうか?
まだ、ジョッキ一杯も呑んでないよ?

「……将吾さまは苦労するだろうなぁ」

島村さんが前髪をくしゃっと掻き上げて、ボソッとつぶやいた。
そして、カウンターに目を落とし、左肘をつけて頬杖をついた。

< 48 / 507 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop