政略結婚はせつない恋の予感⁉︎

「ただいまー」

将吾さんはエントランスのロココ様式の柱の間を縫うようにして建物の中へ入り、声を張り上げた。

わたしも後ろからついていく。
一応「玄関」なのだろうが、どうみてもちょっとした劇場のロビーにしか見えない。

すぐさま、五十代くらいのエプロンをつけた女性が「お帰りなさいませ」と出てきて、将吾さんのブリーフケースを受け取った。
彼のブリーフケースは、エルメスのサック・ ア・デペシュの黒である。

その後ろから、十代後半の女の子が転がるように出てきた。

黒々とした艶やかなストレートの髪を一つ結びにしてサイドに流し、アイボリーのケーブルニットのざっくりセーターにデニムのスキニーパンツの姿をしていた。

「将吾さま、おかえりなさいませ」

彼女は満面の笑みで彼を迎えた。

……うわ…っ、この子、すんごくかわいい。

同性のわたしでも思わずにはいられない。

「ただいま……わかば」

将吾さんは(とろ)けるような笑顔で応えた。


……へぇ、この人でも、こんな笑顔をするんだ。

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