異世界征服
「はい!何か質問は!?」
急に向けられた彼女の小さな手。
さっきまでの哀しげな声と顔はもうなく。

「特に、ないけど」
彼女が此処をどう思っているのか、聞きたかった。
けれど、聞かなかった。
俺は、彼女に遠慮したのか。

彼女は俺に向けた手を自分の口元に当て、言う。
「おっ!流石槙くん!でもまあ、気になる事あったらいつでも聞いてね」
いつでも。
俺はこれから、一緒に戦う前提だな。
「ねえ槙くん。一緒に戦ってくれる?」

珍しく弱気が混じった彼女がいた。
俺は、結局興味本意だったかもしれない。

彼女が時折見せる哀しげな表情が。
彼女が楽しそうに笑うニッて笑顔が。
俺と向き合おうとしてくれる彼女が。

彼女の全てを知りたい。
彼女の役に立ちたい。
彼女と一緒にいたい。

これは恋じゃない。
けれど、人に興味を持ったこと、それが現実だから。
こんなの返事は一つになってしまってるんだよ。

「ああ、暇潰し程度にな」
素直にはなれないがな。

彼女の顔が徐々に明るくなる。
「ありがと!槙くん、よろしくね!」
何度も見た彼女のニッという笑い方。
俺は慣れたのだろう。

彼女につられて笑ってしまう位に。
「ははっ!はははっ!よろしくな」

俺は、彼女にこれから、凄く変えられてしまう気がする。
嫌な気はしない。
むしろ、楽しいと思ってしまう此処に。
俺は居たいと思い始めているから。

「ま、槙くんが笑った……!」
彼女は心の底から本当に驚いてますよという程に、笑う俺を見て信じられないような顔をした。
まるで俺が、笑うという動作をしない機械人間みたいに。
まあ事実、笑うのは数年振りだが。

「俺だって、笑うときは笑う」
見栄とはまた違うが、ああも驚かれると、流石に引けないものがある。

「えー、ホントー?そうは見えなくて」
「おい、それは俺が機械人間だと?」
「そうは言ってないよー」
「じゃあ何だ」
「意外だなと思って」

くるっと回って、目を細める彼女に、不覚にも心が揺れる。
何故だろう。
こんな状況に陥るのが初めてで、それは勿論動揺してる。
が、それとはまた別に、違う感情を抱えている。

スッキリしないけど心地よい。
それが今の俺。
ああ、やっぱり矛盾してる。
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