いつか、らせん階段で
「夏葉は出かけるのが嫌なの?」

「嫌じゃないけど、尚也の支度が終わってないのを知ってるから私が落ち着かない」

尚也は先にカレンダーで私の勤務シフトを確認していたらしい。
「明後日は夜の勤務空けから1日半休みだよね。じゃあデート決定」

いつも通り私の意見をスルーして尚也と私の明後日の予定は決定したらしい。
私も反論するのを早々に諦めた。

「ね、どこに行くの?」

「高原」

「高原?」

「そう。レンタカー借りて高原に行くよ。宿泊先も予約したから。どんなところかは行ってからのお楽しみって事で」

尚也はなぜかご機嫌だ。
よっぽど留学前に行きたかった場所なんだろうか。

しかも、お泊まりもするっていうし。
それもこれも決定事項だから受け入れたけど、これじゃあまさに思い出作り。

別れるのなら私は思い出なんていらない。

いつも通りの日々を過ごして居なくなってくれた方がいいのに。
そんな私の気持ちなんて尚也には全く伝わらないらしい。
言ってもわかってもらえないだろうから、私も言わない。
それに、別れる前にケンカはしたくなかった。

「仕事に行く前に泊まりの支度の荷物の準備をしておいてよ」
と無邪気に笑う尚也に私は「わかった」と曖昧に微笑んだ。
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