夢現物語
或(ある)邸宅に、藤の上と呼ばれた大層美しい方がいらっしゃった。

その方の御息女として、姫君が一人いらっしゃった。
彼女は、葵と名付けられ、やんごとなき姫君として大切にお育てされた。

姫君は母君である藤の上の美しさを引き継ぎ、美しく、可愛らしい姫君にお育ち遊ばれた。

彼女の周りには、幸せが満ち溢れていらした。
ただ一つ、正妻の姫でない事を除けば。

藤の上は父君がお若い頃、此邸宅でお拾いになった方であった。

「この姫の存在は、隠し通さねばならぬ。」

そう父君は仰せられ、北の方には知らせずにいた。
< 6 / 302 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop