御曹司と婚前同居、はじめます
さっきから甘い言葉を吐かれ続けているせいで激しく胸焼けを起こしている。

これが彼の通常運転だとすれば、お遊びしてきた女性たちはさぞかし甘い日々を送っていたのだろう。

私は恋愛に関しては淡泊な方だと思う。

三ヶ月前に別れた人にも、美和は俺を必要としていないんだろう？　と言われて振られてしまった。

そんなことはないのに。ただ、上手な甘え方が分からないだけだ。

いつまでもぼうっと突っ立っていた私の手を取り、瑛真はマンションの中へ颯爽と入っていくと、中にいたコンシェルジュに軽く挨拶をしてエレベーターへと乗り込む。


「どこまでのぼるの？」


遠慮がちに尋ねると、「最上階だ」と返ってきた。


「所有していると言っていたけど、まさかタワー全部じゃないよね？」

「そんなわけないだろう」


そうなんだ。良かった。

胸を撫で下ろしたのも束の間、


「ワンフロアだけだ」


続けられた言葉を聞いた瞬間にサアーッ、と血の気が引いた。
< 22 / 200 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop