御曹司と婚前同居、はじめます
壁の一面を占めているクローゼットのドアの一枚をドキドキしながら開ける。

予想通り、いや、予想以上の服の数に一瞬思考が停止した。

靴の時以上に、どこに着ていくのかと疑問を覚えるドレスも何着か掛かっている。

不安になって端から手当たり次第確認していくと、仕事に使えそうなスラックスもあって胸を撫で下ろした。

これは必要最低限の域を超えている。

お金持ちの感覚ってやっぱり狂っているわ……。

重い溜め息を吐き、皺一つないベッドにゆっくりと腰を下ろした。

祖父母の家もお屋敷と呼べるほど立派なものだったけれど、建物自体は古く、家具も家電も何年も新調していなかったのでここまで圧倒されることはなかった。

急速に疲労感に襲われてベッドへ横たわる。

なんて寝心地がいいの……。

自然と瞼が落ちてきて慌てて目を開いた。

今すぐにでも寝落ちしそう。

絶対に目はつぶらないようにして、真っ白な天井を見つめながら昔の記憶をゆっくりと辿った。
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