御曹司と婚前同居、はじめます
「美和、こっちに来て手伝ってくれ」


パソコン画面を前にして、椅子に腰掛けている瑛真の横に立つ。


「立ったままじゃ仕事にならないな」


何を思ったのか、私の腰に手を回して強引に右膝の上に座らせた。


「ちょ、ちょっと!?」

「座らないと作業にならない」

「だったら椅子を持ってくるよ!」

「この部屋に簡易的な椅子など置いていない」

「だからって、これじゃ余計に仕事にならないでしょ!?」


耳元におかしそうにクスクスと笑う吐息がかかった。


「いいから言われた通りにして」


すっと表情を引き締めて手にしていた書類に視線を戻した。

どうやら本気でこの体勢のまま仕事をしようとしているらしい。

いやいやおかしいでしょ!?


「ねえ、この体勢地味に腰が痛くなるんだけど」

「もう少し深く腰掛けたらどうだ? ここにこの文を打ち込んでくれ」


言われた通りタイピングをする。だけどやっぱりこの体勢は無理がある。


「もう、ふざけないでよ。それにこれ以上深く腰掛けたらキーボードに手が届かないでしょ?」

「それならもう少しこっちへ移動したらどうだ?」


右膝にだけ乗っていたお尻を両膝へと持っていかれる。


「ちょっ……!?」


こんなところ誰かに見られでもしたら――

そう思った矢先、扉をコンコン、とノックする音が響いた。
< 72 / 200 >

この作品をシェア

pagetop