意地悪上司は私に夢中!?
「プロジェクトから外されていた杉田は、大詰めの段階で『MIGA』側の都合で仕様変更が生じたのを知らなかった。
似たケースで納期が間に合わずに双方が揉めて、裁判で依頼者側が負けた判例があるから、トラブル回避のためこっちに有益な変更が契約書に加えられることになった。
今白紙に戻したら違約金が数千万に及ぶなんて、杉田は考えもしなかっただろうな。
白紙撤回する権限を持ってないどころか、契約の内容すら把握してなかったんだよ。
今白紙になった場合の損失に関するデータを作って向こうのメンバーに見せたら、すぐに役員に報告がいった。
常務はデータとボイレコで血相変えて怒ってたよ。
あとはまあ…想像通りだな」

永瀬さんは肩をすくめる。

「永瀬さん、徹夜で損失のデータ作ってたんですよね。
今日はもう帰って寝てください」

時田さんが心配そうに言う。

「いや、開発部の部長には一応報告しておかなきゃいけないから」

永瀬さんは大きな欠伸をしたあと、眠そうな目を私に向けて微笑んだ。

「もう大丈夫だ。安心して仕事に来い」

ポンポンと頭を撫でられて、張り詰めていた糸が切れたように涙が溢れだす。

「もしうまくいかなかったらどうするつもりだったんですか?
ボイレコにうまく証拠が残せなかったら…
『MIGA』側が杉田さんをかばったら…
もし本当に裁判にでもなってたら…」

「ネガティブなんだよお前は!」

「ネガティブにもなりますよ!下手したらうちの偉い人たちから永瀬さんが責められるような大問題になるじゃないですか!」

「そうなったらクビはとんでたかもしれないけどな」

「そんなっ…犠牲にならないって言ったじゃないですか!」

「お前と違って、俺はここをクビになっても痛くも痒くもねーんだよ!」

「そんなので私が助かっても嬉しくないです!」

「お前が杉田の言いなりになるよりよっぽどマシだ!」

「まあまあ…今日は言い合いやめましょうよ」

苦笑いしながら私の永瀬さんの間に割って入る時田さん。

「そうだよ。泣きながら怒ってんじゃねーよ。バカか」

「泣きたくもなるし怒りたくもなりますっ!
どれだけ心配したと思ってるんですかっ!」

鼻をすすりながら、スッピンの目元をぐいっと拭った。

「明日からまたこれ聞けるんですねー。
これがないとやっぱり寂しいですよね」

いつのまにかそばで見ていた花と戸田さんは、んふふっと笑った。


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