意地悪上司は私に夢中!?
花の唸りに付き合っていたらいつまでもお昼が食べ終わらない。

この説明で納得しないなら、面倒だから全部話してしまおう。

「手出そうとしたのは確からしいけど、元カレの名前を呼んで泣いてる私に手出すことができなかったんだってさ。
実際服も着てたし、何にもされた形跡はなかったよ」

さっきまで、んーと唸っていた花が、今度は、へえーと唸っている。

「そんないい人だったんだ、永瀬さん」

「名前出さないでっ!人に聞かれたらまずいから」

「ああ、ごめんごめん」

花は口元に手を当てて周りを見渡した。

そして、そっかあ、と何度も呟きながら、花もご飯に手を付け始める。


「でも、元カレのことはやっぱりまだ忘れられないよね。
時間もそんなに経ってないし」

「…うん」

パンをかじりながら小さく答えた。

『もうとっくに忘れたわ』なんていい女ぶったことを言えたらどんなにいいだろう。

あれだけ怒鳴りつけて別れたのに、きれいさっぱりなんて忘れられるわけがない。

4年も一緒にいたんだから。


「…でも、あのイケメンの意地悪のおかげで、ちょっと気が紛れてるところはあるかもしれない」

「口は悪いけど案外いい人だよね。
無茶ぶりしてるようで、ちゃんと仕事の量調節してくれてると思う。
遅くまで残業するほど仕事積まれたことないでしょ?」

「…まあ…確かに」

花のいうことはもっともで、永瀬さんは私がパニックに陥るほどの仕事を一度に振って来ることはない。

どっちかというと時田さんたちのほうがドカッとまとめて持ってくる。

「なんか好きな子をいじめる小学生みたいに見えるけどね」

「やめてよ。そんなわけないじゃん」

頬杖をついてイヒヒっと茶化す花にため息をつきながら、口の中に入っていたパン屑をお茶で喉の奥に流し込んだ。


< 24 / 123 >

この作品をシェア

pagetop