意地悪上司は私に夢中!?
永瀬さんはアイスコーヒーをいれて、テーブルにふたつ置いた。

そしてソファの私の横にドカッと座った。

スプリングで、私まで揺れる。


時計の秒針の音が私を焦らせる。

何か言わなきゃ、と思えば思うほど言葉は浮かんでこなくなる。

「…なあ」

私が話すより先に、永瀬さんが口を開いた。

「彼女って何の話だよ」

「え…」

何の話って、一個しかないでしょうよ。

「何日か早く帰ってた日…女の人と会ってたでしょ?
腕絡めて、お酒まだある?って…」

途端に永瀬さんは訝し気に顔を歪める。

「どうして知ってんだよ」

…あ、ヤバい。

ストーカーしてたことがバレちゃう。

永瀬さんは、はあーっと長いため息を吐いた。

「…それ、姉貴なんだけど」

「…は?」

今なんて言った?

姉貴?お姉さん?

「旦那とケンカして家出してきた姉貴。
毎晩飲みに付き合わされてさあ。
で、3日くらい俺んちに泊まってた。
ま、旦那が迎えにきて仲直りしたけどな」

確かに…永瀬さんに負けず劣らずの美形で、背も高くて。

そういえば、杉田部長の件の時、お姉さんが電話するのに協力してくれたって。

「…だけど、『蒲田さん』って…」

「ああ、今の苗字が『蒲田』だから、早く仲直りしろって意味で、そう呼んでただけ。…何。勘違いしてたのかよ」

意地悪に笑った永瀬さんの目が、次第に驚きに変わっていく。

そしてその姿はどんどんぼやけて見えなくなっていった。

涙が零れて止まらない。



< 98 / 123 >

この作品をシェア

pagetop