何度でも恋に落ちる
「…お願い。留学してた時の翼を教えて?……あなたに何があったの?」



千夏がそう言うと、翼は虚ろな瞳から涙を流した。





「…俺は何故だか寂しくて…とにかく寂しくて、ずっと眠れなかったんだ。…それで病院で精神安定剤や睡眠薬を服用してもらったんだけど…眠れなかった」


「…っ!!今は…?今はちゃんと眠れるの?」


「いや…。今でも夜が恐い。…いつも誰かがそばにいてくれた気がするのに、その人は留学先にはいなくて…。だから寂しかったんだと思う」



暗闇に支配された窓の外を悲しそうに見つめていた翼。



ゆっくりと翼が千夏に視線を移すと、千夏は両手で顔を覆いながら涙を流していた。




「…稲葉さん?」


「ごめんねっ。ごめんね、!そんなになるまで寂しがらせてごめんなさい。

私には真弓がいたけど、翼は1人で頑張ってたんだよね。

変な意地なんか張らないで翼についていけばよかった…。

……ごめんね翼、ありがとう…」


「…?何でありがとうなの?」




翼が首を傾げると、千夏は溢れ出る涙を拭わないまま優しい笑みを浮かべた。




「私とっ…同じくらい寂しがってくれて…ありがとう」





凄く嬉しいよ。


寂しかったのは翼も同じなんだってわかったから。



もうそれを知れただけで…
満足だよ。



ありがとう、翼。








「稲葉さん?」


「…翼。もう悲しむ必要も忘れた記憶を取り戻す必要もないよ。
あなたはただ、新しい道を歩けばいい。それだけだよ。何も恐くないわ」




千夏は翼の胸倉を掴むと背伸びをして翼にキスをした。



いきなりキスをされて驚く翼を見ながら千夏は目を閉じた。





キスひとつで記憶が戻るなんて、それはおとぎ話の世界のお話。



でも、最後のキスに

もしもを掛けてみたかった…。





千夏はスッと翼から離れると、弱々しく笑みを浮かべた。




もう……

千夏に出来る事は何もなかった。
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