風と今を抱きしめて……
 勝又を追い払ってから一週間程過ぎた。


 真矢は勝又の事は知らずに、相変わらず笑顔で接客に追われている。


 しかし、真矢には一つ気になる事があった。

 最近ユウが真矢のアパートに顔を出さなくなった。


 大輔に気を使っているのだろうか? 

 それだけでは無く、仕事もちょくちょく休んでいる。

 連絡をしてみるが、急用だとだけで、具合が悪い訳でも無いようだ。


 今日も朝から出勤していない……


 真矢は、ユウがこんなに側に居たのに、自分がユウの事を何も知らない事に複雑な思いでいた。


 ユウが何を考えているのか?

 ユウの家族の事でさえしらない……




 大輔もまた、ユウの事が気になっていた。

 始めにこの支店で見た時から、何処かで会ったような気がしていたのだが思い出せずにいた。


 しかし、この間の勝又の件でのユウの姿で思い出したのだ。


 大輔がロス支店にいた時、四つ年下の後輩がいた。

 優秀で落ち着きのある彼を大輔は可愛がっていた。


 その彼が、一郎の息子だと知ったのは、悲しくも彼の葬儀の時だった。


 あの時、事故で命を落とした彼の墓地の前で泣き崩れている男が居た。

 男は頭に包帯を巻き、足にも怪我をしているようだった。



 その様子を見ていた同じ職場の女性が、彼が車を運転していたと教えてくれた。


 その男は、間違いなくユウだった。



 しかし、何故ユウが今ここに…… 


 しかも真矢の友人でいるのだろう? 

 ただの偶然なのだろうか? 


 大輔は、ユウの事が気になってはいたのだが……



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