あなたの溺愛から逃れたい
あなたへの気持ちが抑えきれない
あの岡崎先生が私のことを……？

信じられない展開に思わず硬直してしまいそうになる、けど。


「あ、あの。すみません」

私はやんわりと彼の胸板を押した。

優しい力で私を抱き締めていた彼の身体をすんなりと私から離れる。

そして。


「ご、ごめんなさい。私、好きな人がいるので……」


相手は私がずっと憧れていた人。
だけど、だからと言って付き合うことは出来ない。
だって私は、創太のことが好きだから。


すると崎本様は。


「そっか」

と短く答えるのみだった。しかも柔らかく笑っている。

あれ？ もしかして冗談だったのかな？


「言っておくけど、冗談ではなかったから」

私の心を見透かしたかのようにそう言われ、ギクリとする。

でも、彼の表情はやっぱり優しくて。


「好きな人がいるなら仕方ない。そいつから奪ってやる、とか言えたらかっこいいのかもしれないけど、俺は奪うより、君がその人と幸せになってくれることを願う」

まるで小説の一文のようなその言葉を、純粋に素敵だと思った。

ありがとうございます、というお礼は、自然に口から出た、紛れもない本心だ。


さすがに身体が冷えてきたかな、と彼が言ったから、私たちは旅館へと戻った。

その間、何気ない話しかしなかったけれど、告白してくれたことは、とっても嬉しかった。
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