あなたの溺愛から逃れたい
呆然とする私に、彼は言う。

「逢子が必死に俺たちの関係を終わらせようとしている気持ちは分かってるつもりなのに、こんな嫌なこと言ってごめん。
俺だって、逢子との関係はしっかりと終わりにするはずだった。……でも、無理だよ。こんなに逢子のことが好きなんだ。離れるなんて……ましてや他の女と見合いなんて出来る訳がない」

さっきまでうちわを持っていた彼の右手が、私の頬に触れる。

温かくて、大きな手。

手が頬に触れているだけなのに、彼の全身に包まれているような気持ちになる。創太に触れられると、いつもこの安心感がある。


でも……。


「駄目、だよ」


そう、駄目。
私たちが恋愛をすることは許されないことなんだから。


涙が出そうになるから、そんなこと言わないでほしい。
前置き通り、彼の言葉はやっぱり私にとって〝嫌な言葉〟。でも……嬉しくて幸せな言葉でもあった。


すると創太は。

「逢子が気にしてるのは、将来的なことだろ? 俺の結婚相手には、この旅館を更に繁栄させていくために相応しい人じゃないと駄目っていう」

それはまさにその通りなので、私が「うん」と答えると。


「俺は逢子と一緒になるためなら、この旅館の後継なんてどうでもいいと思ってる。逢子が手に入るなら、この旅館なんて捨ててーー」

「そ、それは駄目っ‼︎」

思わず、大きな声を出してしまった。
でも、本当にそれだけは駄目。創太が私と一緒になるために斎桜館を捨てるなんて。
創太にとってこの旅館がどうでもいいものならまだしも、私は知ってる。創太が、斎桜館をとても大事に思っているということはーー。
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