あなたの溺愛から逃れたい
「俺は最初から、自分のパートナーは逢子しか考えてない。逢子が他の男を選ぶのなら、そんな逢子を想いながら一生一人で行きていくつもりでいた」

「私も、創太しか考えられないです……っ! 私じゃない誰かと結婚した方が創太の為だってずっと思っていたけど、それでもやっぱり……創太が好き……!」


お互いの気持ちをそれぞれ女将に伝えると、庭園の方から「そうだと思ったよ」という、創太に似た声が聞こえてきた。

振り返ると、そこにいたのは庭園の方からこちらへやって来る旦那様だった。


旦那様は、いつ見ても創太に似ている。
低すぎない声も、端正な顔立ちも、真っ直ぐな黒髪も、そして柔らかな雰囲気も。
特に優しい笑顔が似ている。
濃い緑色の上質な着物を着て、こちらへやって来る旦那様は、その笑みを浮かべていた。


「父さん……」

「見合いがどうなったかは恵美さんから聞いたよ。まあ気にすることはない。恵美さんはまだ怒っていたが、あちらのご両親は理解してくれているよ。『見合いとは言え、当人たちの気持ちが一番大事だから』と」

そう言って、旦那様は「あはは」と笑ってみせる。

創太も普段はよく笑っているから、こんなところもやっぱり親子でそっくりと言えるのかもしれない、けど……


「何故、怒っていないのですか……?」

私は探るような視線と声色で、旦那様にそう尋ねた。


兄妹のように育ててきた私たちが恋に落ちたこと。
そのせいで創太の縁談が破談になったこと。
それでもなお、私たちはお互いから離れたくないとワガママを言ってしまっていること。


旦那様が怒っているところは今まであまり見たことはないけれど、今だけは叫ぶようにして怒ってもいいはずだ。だけど彼はいつもみたいに笑うだけで、怒っている様子は感じられなくて……。

すると。
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