その男、極上につき、厳重警戒せよ


「あの人なら知ってるわ。深山さん……だっけ。前にも何度か来てたよ。ひとりでは初めてかもしれないけど。あのとき咲坂さん、いなかったっけ。情報セキュリティの会社の社長さんなんだって」

「社長なの? あんなに若いのに?」


どう見ても二十代後半、いっていて三十代前半だ。


「ほら、前にさ、顧客情報が漏れた時があったじゃない。あの後、セキュリティ強化するために入れた業者だよ。あの人もイケメンだけど、作業に来てくれた人がまた格好良くてさー、私はそっちの人が好み」

「そうなんだ」


そういえば会社名自体は聞いたことがある。作業の人となら会ったことがあるかもしれない。


「あの、すみません」

「あ、はい。いらっしゃいませ。ご用件をお伺いします」


昔からの付き合いのある、パッケージ会社の営業さんだ。

私を見て、少しだけ不思議そうな顔をしていたけれど、「ただいま担当のものが参ります。こちらでお待ちください」と言うと、考えるのをやめたように笑顔になった。
商談スペースヘ案内して、お茶を出している間に担当者がやってくる。

その間のお客様は西木さんが対応してくれる。
受付を二人体制にしているのはそのためだ。

受付の仕事は、大体がこんなことの繰り返し。
お客様に失礼のないよう、朗らかな笑顔でい続け、気持ちよく入って気持ちよくお帰りいただく。

受付スペースに戻り、背筋を伸ばして前を見る。
私はここで、できるだけ無害な笑顔をつくって、自己満足の復讐を続けている。


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