その男


 驚く母の呼び止める声を無視し、芽以は自分の部屋の扉に鍵をかけた。

 大切な宝物を飾っている出窓の前にコーヒーカップを置く。

 カップはそこで不釣り合いに大人だった。

 追って来ていた大人の自分はこの部屋の中までは入って来れない。

 芽以は濡れたコートを脱ぎベッドに横たわると目を閉じる。

 一度ゆっくり静かに深呼吸をする。

 ここは安全だ。




 わたしはこのままでいい。






 
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