その男


「篠崎さんにはぼくは童貞に見え、陽子さんには女ったらしに映り、あのおたくっぽい女子高生はぼくをホモと思ってたんやなぁ」

 顎に手を当て今朝剃り残した髭に触れる。

「でもそれって、そのまんま三人を映した感じじゃないか?ぼくやなくてさ」

 彼女らはぼくの中に自分の一部を見いだし、そこから何かを探そうとしたのではないだろうか?

「それにもしかしたら」

 独り言ちる。

 ぼくにもその要素みたいなものがあるのかも知れないな。

 ぼくが気づかないだけで。

 今までぼくは自分を分かっていると思っていたけど、意外とそうじゃないのかも知れない。

 もしかしたら、

「内なる自分と他人から見た自分の両方で、本当の自分なのかも知れないなぁ」


 ぼくは声に出してそう言ってみた。

 ビールの缶を凹ませパコンと音を鳴らす。

「ミドリにはぼくはどんなに映っとうんやろ」

 甲羅を指で撫でるとミドリは気持ち良さそうに目を閉じた。 



< 45 / 51 >

この作品をシェア

pagetop