王太子様の策略に、まんまと嵌められまして~一夜の過ち、一生の縁~
「もしかして、あのときの二の舞にならないかと、飲むのを躊躇っていますか?」

「……っ」

「大丈夫ですよ、もうあのときのようなことにはなりません。そんなに不安がらず、飲んでいいのですよ」

「でも、私はあのとき、我を忘れるまでにこのお酒を飲んでしまったばかりに、ファリス様と……」

その先は憚られて、言えなくなってしまった。
深刻な思いの私とは対照的に、ファリス様の表情は和らいでいる。

「後悔していますか?」

「ええ、もちろんそれは」

「そうですか。ですが私は後悔していません。むしろ感謝したいくらいです。たとえあの夜、あなたが――……」

と言いかけて、ファリス様は話すのをやめた。

その先に続く言葉が気になって、視線を移す。

目が合うと、ファリス様はフッと笑って、それ以上は聞くなと言わんばかりに料理に目線をずらした。


「ともかくあの件であなたも慎重になるでしょうし、私もこれ以上は飲んではいけないと判断したならば止めますから、そこまで警戒せずとも心配ありません。さすがに私もそう簡単に酔って記憶を無くしたあなたを、抱くようなことはしないと約束しますから」

「それは、……どうだか」

「愛のない行為は私にも辛いものです。欲は満たされようとも心は満たされない。今度あなたを抱くときは、そこに愛が生まれたと確信したときです」

その言葉は、私を動揺させるには容易いものだった。
どう反応していいかわからず、ただ顔が熱く火照ったまま、目を泳がせる。

そんな私を再びファリス様は見て、また笑みを零す。
そしてグラスを手に取ると、顔の前に上げた。

「さあ、この話は一旦終わりにして、早く頂きましょう。ビアンカの新しい生活に、乾杯」

そう言って、グラスの中のお酒を身体に流し込んだ。


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