汽笛〜見果てぬ夢をもつものに〜
プロローグ
プロローグ

1982年3月

舞い散る雪、凍てつく寒さ、春遅い東北を走る列車に夢と闘いを求めた一人の少年、廣岡龍二が乗っていた。
青い車体に白いラインの通称ブルートレインは冬の情緒ある白い草原に一筋の明かりを点すように彩りを鮮やかにする。
山間を縫うかのように聞こえてくる汽笛は何かの始まりを合図しているようだ。

列車の中では間もなく終着駅到着のアナウンスが車内にこだまし、その声で動き始める車上人を横目に龍二は通路の折り畳み椅子に腰掛け外を眺めていた。

夜行列車に揺られ辿り着く地方都市、都会の喧騒が嘘のように辺り一面雪景色が長旅の疲れを癒す。
そこには自然の恵みが顔を覗かせ、龍二が住むごみごみした町とはまるで比べものにならない美しさを醸し出していたが、昭和の高度経済成長の遅れを否めない雰囲気の町並みがそこにはあった。
ただ、遅れまいと雪の中から顔を覗かせる雑草に必死で生き抜く生命の漲る力を感じた。

そして上野駅を22時24分に発車した寝台特急あけぼの3号は定刻通りの7時31分に秋田駅へ到着した。
降り立つホームで龍二は一人深く考えていた。
右も左も分からない土地に来た満足感とこれからの人生で起こることへの期待と不安で一杯だった。

世間では小学生という龍二に何故旅が必要だったのか、心の奥に秘められた夢と挫折からくる生来の負けん気が行動へと誘った。

龍二は秋田駅から男鹿線というローカル線に乗り終着男鹿駅まで行った。
そして、駅舎の柱に自分の志を書き綴った。
「よし、いつか必ずまた戻って来よう、再び戻るまで何十年掛かろうと必ず夢を叶えて戻って来よう」
そう心で呟き駅舎から踵を返し秋田駅へ向かう褐色の車体に雪が覆う折返し列車へ乗り込み帰途についた。

……………

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